キネステティクって?

 キネステティクとは、ドイツ語圏のヨーロッパで約40年にわたり発展してきた、動きの感覚を使った学習法で、科学的根拠をもった学問であり、実践的な介助のツールです。  キネステティクを用いた介助法の大きな特徴は、「相手を抱えない」「持ち上げない」ことです。重力に逆らわず、人間の自然な動きを生かし、その人の中にある動きの資源を利用します。相手を持ち上げる介助方法は、介助者にも負担が大きく、腰痛などの問題にもつながります。キネステティクに基づいた動作は、相手の健康増進になると同時に、介助者の健康障害のリスクも下げます。

 キネステティクはまず、今までの自分たちの今まで行ってきた介助方法(力任せに持ち上げたり、介助者中心で相手を無視した方法)が自分たちにとってどんなに大変なやり方で、相手にとってもどれだけ苦痛かを、自分の身をもって体験するというところから始まります。次にキネステティクの概念である、自然な動きや感覚を用いてみると、どれだけ楽で、相手も快楽かということを経験します。人の自然な動き、感覚を常に意識し、一つ一つの動作を大切に丁寧に行う方法なので、全ての日常生活動作、起きて座る、立ち上がる、移動への援助の質が変わっていきます。質の良い援助は、生活リハビリそのものなので、介助を受ける人の健康状態にも少しずつ変化がおこります。例えば、自分で寝返りがうてるようになった、立ち上がりの介助が軽減した等です。そうすると、自分の提供するケアに自信が持てるようになり、自分の行っている援助の意味や効果を見出すことができるようになります。また、キネステティクをケアに取り入れることは、口先だけ、文面だけではない、本当の意味での 『その人中心のケア』を遂行する事になり、看護、介護する人はもっと楽に、優しく行う事ができるかもしれないと感じています。

 当院は昨年11月から在宅復帰機能強化加算の算定が認可され、今年5月には包括ケア病床の認可を頂きました。今後は在宅復帰率や回転率を意識した医療や介護を行っていくことが求められてきます。今までのいわゆる重症で寝たきりの患者さん中心の病棟から、比較的ADL(日常生活動作)能力の向上が望めるような患者さんの入院が増えてくると思われます。そして、そのような患者さんのできる能力をきちんと評価し、段階的にADLを上げていくという作業を、病棟ナースや介護士を始め、患者さんに関わる職員全体が行えるようになる必要性がでてきます。

 それらを解決し実践する為のツールとして、職員全員でキネステティクの考えやテクニックを習得する為の研修を昨年12月から開始しました。研修内容としては、まず最初に外部講師を招き、全職員を対象に1時間半の講習会を3回実施しました。更には、選抜された7名が3月から7月に掛けてコースを受講し終講しました。現在はその7人を中心に他の職員にそれらのスキルを指導してもらっています。先日から講師の先生に当院に来ていただきラウンドしながら、実践的なアドバイスを受け、日々患者さんと共に学習している最中です。最後に、今後当院はキネステティクの考えを基本とした「安全で根拠ある看護・介護」を実践し、患者さんの満足度をあげることを常に意識し、「スパイラルに改善」や「知識・技術の習得」に励んでいきたいと思っています。